パネルディスカッション 母と子の芸術 10

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伊東順二
伊東順二

 北代先生がもう一度お話しされたいそうです。スライドをどうぞ。

北代美和子
北代美和子

 最初に三砂ちづる先生のご著書『五感を育てるおむつなし育児赤ちゃんからはじめるトイレトレーニング』『赤ちゃんにおむつはいらない』の2冊をご紹介したいと思います。

 三砂先生は津田塾大学国際関係学科の教授で、ご専門は疫学、免疫の疫という字を書いて疫学です。私が尊敬している女性ですが、『女子学生、渡辺京二に会いに行く』という本も書かれています。

 さきほど仁志田先生が名前をあげられた渡辺京二先生ですね。その三砂先生が「おむつなし育児」ということを提唱されていらっしゃいます。「おむつなし育児」というのは、赤ちゃんがおしっこをしたくなるのを見極めて、おむつの中ではなくて、おまるの中に放尿させるという育児法です。

 この本の中だと思いますが、三砂先生がアフリカのお母さんの話を紹介されています。アフリカのお母さんは、赤ちゃんがおしっこをしたくなるのが分かるのだそうです。三砂先生が「何で分かるの」と尋ねたら、「あなた、自分がおしっこしたくなったら分かるでしょ、それと同じことよ」という答えが返ってきました。

 つまり、自分が尿意を感じるのと同じように、赤ちゃんの尿意も感じることができるというわけです。おそらくアフリカのお母さんたちは、赤ちゃんをおんぶしたり、抱っこしたりしながら仕事をしている、だから赤ちゃんとの五感を通じた交流、肉体を通じた交流が絶えずある、それでわが子の尿意も自分の尿意と同じように感じることができるのではないかと思います。

 『赤ちゃんにおむつはいらない』には、「失われた育児技法を求めて」という副題がついていますが、おまるに放尿させるという育児法はかつては日本でもあったようです。

 考えてみると、私たちの小さい頃もまだあったような気もします。それがこの忙しい現代では、なかなか実践が難しくなってきている。アフリカのお母さんたちは、すでに母学、つまり体を通じて赤ちゃんと交流することを実践しているけれども、それはアフリカの農村社会だからこそ可能なことであって、この東京という大都会、あるいは日本では困難になっているという現状があるのも事実だと思います。

 次の写真は、ボーヴォワールです。「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」という言葉で有名です。母学にある「赤ちゃんを知る、そして母になる」というのも同じことで、子どもを妊娠して出産すれば、それで母になるわけではない。この『母学』という本では、母と子の交流を通じて、お母さんが赤ちゃんに導かれながら母になるということが述べられていると思います。

 最後の写真は私が研究しているフランスの作家、マルグリット・デュラスです。デュラスは自分の母親との関係も良くなかったし、自分の息子ジャンに対してもいいお母さんではありませんでした。その息子が母デュラスをインタビューしたフィルムがあります。

 そのなかで、「お母さん、あなたはいろいろな愛の形を語ってきたけれど、母性愛についてだけは語らなかったね」という息子の質問に、デュラスはこう答えています。「そんなことはない、私は、母性愛について多くのことを語ってきた。あなたがたとえ犯罪者になっても、人を殺したとしても、私はあなたを守る、母性愛というのは避けることができない、決して消すことのできない愛だ。」実はデュラスが息子を抱きしめたり、キスをしたりして肉体的に触れ合っている場面の写真やフィルムが残っています。やはり母性愛というものも、本能ではない、赤ちゃんとの肉体的な交流を通じて、しだいに育まれていくものだということが、この母学を読むとよく分かります。

 ですから、決して生物学的な母だけが母になるということではない、男も女も含めた社会の、私たち一人一人が、仁志田先生、小泉先生がおっしゃられたように相手を思いやる気持ち、赤ちゃんを一人の人間として、ひとつの命として尊重し、大切に育むことが、これからのよりよい社会に向けての一歩になる。『母学』の中には、そのための手がかりがあると思います。

伊東順二
伊東順二

 それでは、この辺で終わりたいと思いますが、「お母さん」という言葉を一般化させた明治の言語学者 上田万年は、「人生において全てのことは、母から学んだものだ」というふうに語ったそうです。

 そのように、知識という私たちが獲得していると思っているものは、ひょっとしたら私たちの内なるものなのかもしれないし、その内なるものをつくってくれた内なるものというのは、母という言葉に代表されるものかもしれません。そういうことを考えることによって、私たちは「人間とは何か、生きるということは何か」ということを考えられると思いますし、芸術というものがそのようなことに貢献できるとすれば、ここにいらっしゃる赤ちゃんたちにも十分感じられるものであるというふうに信じております。

 今後とも、そのようなご家庭に貢献するものを作り出そうと思っておりますので、よろしくお願いしたいと思います。今日は先生方、ありがとうございました。

 どうも皆さん、ありがとうございました。赤ちゃんの皆さん、ありがとうございました。(終了)

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そして母になる。
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