基調講演「脳科学からみた芸術と倫理」6
人間の言語は考えてみれば大変な特徴を持っています。「転移性」 という凄まじい特徴があります。言語では、時間も空間もたやすく飛 び越えることができます。ですから、自分はここにいて、アメリカに いる自分を想像して考えることができます。
それから、10年後につ いても、自分は想像して考えることができます。これは言語がないと できません。それから、恣意性ということがありますが、言語という のは文法的に正しいことが現実に起こることと一致するかといえば、まったく別です。
まったく現実に起こらないことも、文法的には極め て正しい形で表現ができます。この辺が、宗教の問題とも絡んできま すが、あまり突っ込みすぎますと、海外でも大きな問題を起こします ので、慎重に少しずつ行っております。
言語の本質を知るには、逆に言語を使わないものをよく調べてみればいいのではないかと思って、実はパントマイムに数年間通いつめま した。ですから、日本の代表的なマイマーの方とも、親しくなりまし た。
その方のマイム公演のときに私はハッと思いました。舞台の端か ら端まで、黒子さんがプラカードを持って一瞬走り抜けました。その プラカードに書かれていたことは、「3ヵ月後」という言葉でした。 これは規則違反です。マイムで肉体表現しか使ってはいけないのに、 言葉を出し、数字を出しました。
でもこれで言語の本質に、私は気付 いた気がしています。つまり、言葉や記号がないと、未来のことを正 確に伝えたり、考えたりすることは極めて難しいということです。た だ、この言語を持ったが故に、現生人類は種々の問題をかかえたと私 は考えております。
多分、精神病のあるものも言語に起因している可 能性があるのではないでしょうか? さらに一口でいうならば、現生人類は言語をもった。そこに宗教が必要になってきたと、私はそうい うふうに考えております。